「インディペンデントなアーティストのネットワーク」瀧健太郎[その4]
[アーティスト達に逢う -4-]
マルク・プラスがパリのギャラリー3015で行った個展「LAZY LINE」では、ビデオやスライド、コンピュータ、インターネットを複雑に多用したインスタレーションを展示していた。マルクはそれらの機材を通して出来上がってくる映像そのものより、プロセスが一つの重要な点であると語った。
マルク・プラスがパリのギャラリー3015で行った個展「LAZY LINE」では、ビデオやスライド、コンピュータ、インターネットを複雑に多用したインスタレーションを展示していた。マルクはそれらの機材を通して出来上がってくる映像そのものより、プロセスが一つの重要な点であると語った。
Mark Plas(France)
つまり画面が再撮されたり、インターネット上にアップロードされる圧縮された映像、さらにスライドや8ミリフィルムの映写機で別なフッテージを重ねられた映像など、彼の装置を通して様々に変容する映像群が、結果ではなく映像の生成するシステムとして提示されていることにある。
彼は2002年の来日時にも自身の作品について「それは作品ではなくメディアのランドスケープへの一つの訓練だ。」と語っている。また彼のその訓練の中の一つとして「イメージの共食い(cannibalism of image)」という方法があると言っている。マルク・プラスはマスメディアの蔓延する世界において、単なる純粋な芸術表現の不可能性について語っている。またその中で有効な手段として、既存イメージを剽窃あるいは転用し、それらを衝突させることで文字通り共食いのような状態に陥らせるという方法を説いている。
東京の作家では、3人のインタビューを行うことができた。印牧和美は上映プログラムにも紹介された「president」(2001)以降ビデオの見ること、見られることや即時性に注目した作品「Green Rays I/II」(2002-3)を制作しており、香港展ではテレビとビデオの相違点・類似点、そして観客が見る、見られるという構造を同時に扱うといった複雑なテーマに着手している。
「以前は感触や感覚といった反応をビデオで表現しようとしましたが、それができないということを知りました。それが一つの転機となりました。映像における構造を見せるというのは重要だと思っています。それは私達はビデオアートをエンターテイメントとして見せているのではなく、アートとして見せようとしているからです。」事前のインタビューでテレビとビデオアートに関わる作品を作りたいと述べていたことが、香港展で結実したといえる。
西山修平はビデオの特質を、「映像、音、文字、声」の四要素からなる情報量の多いメディアであると同時に、そうした映像は実際には虚像であるし、そこには何もないという、ただ見るものが記号として受け取るだけであると指摘した。「ビデオというものが、何でもあるようで、何にもないようなそういう残酷なメディアなのではないかと思っているので、興味を感じています。」それらを構造の上で見せる努力を過去行ってきた彼だが、今後はビデオの構造の問題だけではなく、そうした訓練を通じて得たアイデアを作品の中に展開させてゆきたいと話してくれた。
Masayuki Kawai(Japan)
河合政之はビデオアートの展覧会を巡回させるテレピデミク!展の意義について、「商業や資本がグローバルに国境や海を越えていったのとき、またそれらのみが支配する社会が台頭してきたとき、そうしたものへの対抗としてアートも同じように国を超えていくべきだと思います。」と述べている。
このことは現代アートの文脈で語られるビデオアートとも、また技術面が先行されがちなメディアアートの分野で語られるビデオアートとも、決定的な違いを示しており、彼らのこうした芸術形態への確信的で肯定的な意見もまた他の国にはあまり見られない東京や日本のシーンの特徴を見せてくれた。
[巡回展を終えて]
任意に選んだ映像作家達ではなく、一つのコンセプトをしっかりと持った若い世代の作家達とのこうしたやり取りはそれ自体がコラボレーションであるかのように、自分自身に様々な方向性と気付きを与えてくれた。
彼ら一人一人はまったく違った視点でおのおのの作品製作や活動に通じているが、ビデオアートを切り口にインタビューを行うことによって、彼らのビデオメディアへの共通の関心や、アートの役割への認識が類似していることを知らされた。今後はこの巡回展を通して見えてきた彼らの思想や運動に視点をおいて、恐らくテキストやドキュメンテーションの提示による展開が予想される。
こうしたネットワーク作りと創造への概念や思想の交換が、昨今の世界的な情報網・流通網といったインフラのみばかり整備され、中身のない無思考で形骸化しつつある世界が築き上げられるなか、芸術交流として有効なのではないだろうか。この踏み出したばかりの意識的で意欲的な実践活動は今後も継続的に続けられ、国内外の創造と想像の領域の開墾に少なからずの影響を与えることだろう。
最後に、この展覧会の開催にあたって協力してくれた各グループと作家達、ご助言いただいた各方面、そして開催の実現を可能にしてくださったポーラ美術振興財団に感謝したい。
つまり画面が再撮されたり、インターネット上にアップロードされる圧縮された映像、さらにスライドや8ミリフィルムの映写機で別なフッテージを重ねられた映像など、彼の装置を通して様々に変容する映像群が、結果ではなく映像の生成するシステムとして提示されていることにある。
彼は2002年の来日時にも自身の作品について「それは作品ではなくメディアのランドスケープへの一つの訓練だ。」と語っている。また彼のその訓練の中の一つとして「イメージの共食い(cannibalism of image)」という方法があると言っている。マルク・プラスはマスメディアの蔓延する世界において、単なる純粋な芸術表現の不可能性について語っている。またその中で有効な手段として、既存イメージを剽窃あるいは転用し、それらを衝突させることで文字通り共食いのような状態に陥らせるという方法を説いている。
東京の作家では、3人のインタビューを行うことができた。印牧和美は上映プログラムにも紹介された「president」(2001)以降ビデオの見ること、見られることや即時性に注目した作品「Green Rays I/II」(2002-3)を制作しており、香港展ではテレビとビデオの相違点・類似点、そして観客が見る、見られるという構造を同時に扱うといった複雑なテーマに着手している。
「以前は感触や感覚といった反応をビデオで表現しようとしましたが、それができないということを知りました。それが一つの転機となりました。映像における構造を見せるというのは重要だと思っています。それは私達はビデオアートをエンターテイメントとして見せているのではなく、アートとして見せようとしているからです。」事前のインタビューでテレビとビデオアートに関わる作品を作りたいと述べていたことが、香港展で結実したといえる。
西山修平はビデオの特質を、「映像、音、文字、声」の四要素からなる情報量の多いメディアであると同時に、そうした映像は実際には虚像であるし、そこには何もないという、ただ見るものが記号として受け取るだけであると指摘した。「ビデオというものが、何でもあるようで、何にもないようなそういう残酷なメディアなのではないかと思っているので、興味を感じています。」それらを構造の上で見せる努力を過去行ってきた彼だが、今後はビデオの構造の問題だけではなく、そうした訓練を通じて得たアイデアを作品の中に展開させてゆきたいと話してくれた。
Masayuki Kawai(Japan)
河合政之はビデオアートの展覧会を巡回させるテレピデミク!展の意義について、「商業や資本がグローバルに国境や海を越えていったのとき、またそれらのみが支配する社会が台頭してきたとき、そうしたものへの対抗としてアートも同じように国を超えていくべきだと思います。」と述べている。
このことは現代アートの文脈で語られるビデオアートとも、また技術面が先行されがちなメディアアートの分野で語られるビデオアートとも、決定的な違いを示しており、彼らのこうした芸術形態への確信的で肯定的な意見もまた他の国にはあまり見られない東京や日本のシーンの特徴を見せてくれた。
[巡回展を終えて]
任意に選んだ映像作家達ではなく、一つのコンセプトをしっかりと持った若い世代の作家達とのこうしたやり取りはそれ自体がコラボレーションであるかのように、自分自身に様々な方向性と気付きを与えてくれた。
彼ら一人一人はまったく違った視点でおのおのの作品製作や活動に通じているが、ビデオアートを切り口にインタビューを行うことによって、彼らのビデオメディアへの共通の関心や、アートの役割への認識が類似していることを知らされた。今後はこの巡回展を通して見えてきた彼らの思想や運動に視点をおいて、恐らくテキストやドキュメンテーションの提示による展開が予想される。
こうしたネットワーク作りと創造への概念や思想の交換が、昨今の世界的な情報網・流通網といったインフラのみばかり整備され、中身のない無思考で形骸化しつつある世界が築き上げられるなか、芸術交流として有効なのではないだろうか。この踏み出したばかりの意識的で意欲的な実践活動は今後も継続的に続けられ、国内外の創造と想像の領域の開墾に少なからずの影響を与えることだろう。
最後に、この展覧会の開催にあたって協力してくれた各グループと作家達、ご助言いただいた各方面、そして開催の実現を可能にしてくださったポーラ美術振興財団に感謝したい。